本件商標(登録第5040036号)

パロディ商標における「公序良俗違反」:SHI-SA vs. PUMAに係る審決取消請求事件

August 1, 2019 / Blog, Case Comment, 五所万実, 著者

Darts-ipユーザーである、慶応義塾大学 言語学助教の五所万実様より、注目の商標判決についてご寄稿いただきました。

平成31年3月26日判決 知財高裁 平成29(行ケ)10203 審決取消請求事件(「SHI-SA」事件) (darts-329-602-G-ja

平成31年3月26日、知財高裁は、商標「PUMA(+図形)」(以下、「引用商標」)を有するPuma SE(以下、「プーマ社」)による、商標「SHI-SA\OKINAWAN ORIGINAL\GUARDIAN SHISHI-DOG(+図形)」(以下、「本件商標」)に対する無効審判請求において、登録を有効とする特許庁による審決(平成29年7月7日 無効2016-890011号事件; darts-051-961-E-ja)を支持し、プーマ社の請求を棄却した。

本件商標(登録第5040036号)
本件商標(登録第5040036号)

引用商標(登録第3324304号)
引用商標(登録第3324304号)

 

パロディ商標

周知著名な商標をパロディ化した商標「面白い恋人(vs. 白い恋人)」や、「フランク三浦(vs. フランク ミュラー)」の事件が話題となり、近年、パロディ商標は関心を集めている。商標法上、パロディに関する明確な定義や規定はなされておらず、国によってもパロディ商標の扱いは異なるようだ(CONFLICTING JUDGMENTS BETWEEN US AND KOREA ON ‘PARODY’)。

日本においてパロディ商標は、周知著名商標との類似性や出所混同、希釈化、あるいは周知著名な引用商標の信用又は名声に便乗して利益を得ようとする不正目的との関係で論じられることが多い。また、本事案のように公序良俗違反が適用されるケースも見られる。ただ、パロディ商標を公序良俗違反の射程内に含めるか否かという点については、慎重に検討していくべきとの議論もあるようだ。¹

パロディ商標の関連条文としては、次の条文があげられる。

商標法第4条1項7号 公序良俗違反
商標法第4条1項10号 周知商標との抵触
商標法第4条1項11号 先願既登録商標との抵触
商標法第4条1項15号 出所混同(総括規定)
商標法第4条1項19号 周知商標の不正目的使用


¹ 齋藤 崇, 小川 宗一「パロディ商標に対する不登録事由の適用可能性」日本大学知財ジャーナル10号(2017年)104頁

 

背景

上記引用商標を有するプーマ社は、本件商標に対し、公序良俗違反(商標法第4条1項7号)を理由に無効審判請求をしたが、特許庁より登録有効の審決がなされたため、審決取消を求め知財高裁へ出訴した。

本事案に至るまでに、本件商標は、プーマ社による異議申立において、2度にわたって特許庁により登録取消の審決がなされているが、知財高裁でいずれも取り消されている。第一次審決取消訴訟では、引用商標との類似性(同項11号)、第二次審決取消訴訟(darts-821-324-A-ja; darts-821-784-A-ja)では、同号に加え、出所混同(同項15号)、不正目的使用(同項19号)の該当性が争われた。最終的に特許庁による3度目の審理において、本件商標はいずれにも違反して登録されたものではないとされ、登録維持の決定がなされた(darts-985-294-A-ja)。

 

争点

本事案では、本件商標において、「その商標の登録を社会が許容すべきではないといえるだけの反社会性が認められる」すなわち「公序良俗違反(商標法第4条1項7号)」に該当するか否かが争点となった。

 

特許庁による審決要旨

周知著名な引用商標と本件商標は、外観、観念及び称呼において異なるものであり、同一又は類似の商品に使用されたとしても、商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるとはいえず類似しない。したがって、引用商標に化体した顧客吸引力に便乗する「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」とはいえないから、商標法第4条1項7号に違反して登録されたものではない。

 

知財高裁による判決

本件商標と引用商標は、外観、観念、称呼いずれにおいても類似せず、商品の出所につき誤認 混同を生ずるおそれがないから、本件商標について、引用商標の顧客吸引力にただ乗り、その出所表示機能を希釈化させ、又はその名声を毀損させるおそれがあるといった不正の目的をもって出願されたということはできず、本件商標の登録が商道徳に反する、また国際的な信頼を損なうということもできない。したがって、本件商標について、その商標の登録を社会的に許容すべきでないといえるだけの反社会性があるとは認められないから、商標法第4条1項7号には該当しない。

 

以下に、原告の主な主張と、それに対する裁判所の判断を概略して示す(表1)。

原告の主張 裁判所の判断
商標の類似性 動物図形の差異はわずか。(当該差異が全体の印象や外観・観念に与える影響は軽微) 動物図形との組合せによる全体的な形状が共通しているものの、大部分を構成する文字部分の差異、二段文字の有無において異なる。
文字部分からは、出所識別標識としての称呼・観念は生じず。 本件商標と引用商標から、それぞれ「シーサー」と「ピューマ(PUmAのブランド)」の称呼・観念が生じる。
公序良俗違反(商標法4条1項7号)は、商標の同一又は類似を適用要件としない。 同号の根拠として、ただ乗り、希釈化、名声を毀損のおそれによる不正目的の使用を主張する限り、類似性が前提とならざるを得ない。
不正目的使用 本件商標に係る使用態様、消費者調査の結果*、引用商標の著名性・独創性、また、シーサーが本来的特徴からは逸脱し、引用商標に似通った描き方をされている点から、周知著名な引用商標の持つ信用・名声及び顧客吸引力にただ乗りする不正な目的から本件商標は採択されたと言える。

*調査対象商標

原告が提示した使用態様や調査対象商標は、本件商標(の使用例)と評価することはできないし、「シーサー」の本来の特徴を備えている点も多く見られる。そもそも両商標は非類似であるから、原告が主張するような不正な目的で本件商標を採択したと認めることはできない。

 

 

 

表1 「SHI-SA」事件における原告主張と裁判所の判断

コメント

本件商標は、異議事件において、類似性(商標法第4条1項11号)、出所混同(同項15号)、不正目的使用(同項19号)が否定されたという経緯があり、本事案では、公序良俗違反(同項7号)の該当性が争われた。

同項7号を適用した論理展開は、周知著名商標の有する名声・信用・顧客吸引力へのただ乗りによって、出所表示機能を希釈化させ、名声を毀損させるなどの不正な目的による出願であるため、商標法の予定する秩序(公正な競争・取引秩序)に害するというものであった。しかし、以上を理由に同項7号を適用する限り、「商標の類似性」が前提とならざるを得ないとされ、原告の主張は退けられた。

本事案が示すところは、パロディ商標の不登録事由として7号を適用する場合、公的秩序を害する不正目的による出願・使用であるという立証においても、結局は「商標の類似性」が肝要となるということであろう。実際、本事案と引用商標が同じで、同項7号に該当するため登録無効となった「KUMA」事件(darts-282-052-B-ja)では、類似性が肯定されている。

 

「KUMA」事件において登録無効となった商標(登録第4994944号)

「KUMA」事件において登録無効となった商標(登録第4994944号)

 

パロディは、分離観察して認定される個々の類似性よりも、個々には見られなかった全体から生じる類似性(ゲシュタルト的類似性)によって、オリジナルが想起されることの方が多いように感じる。文字と図形の結合商標である本件商標も、形式的には認定しにくいゲシュタルト的な類似性を有するというパロディの特性上、引用商標との類似性が否定されたと考える。

文芸評論家のリンダ・ハッチオンは、パロディを「類似よりも差異を際立たせる批評的距離を置いた反復である」と位置付けている。²パロディ商標に関しては、いかに近似するかということよりも、いかに容易にオリジナルではないと認識させるか、それと同時にオリジナルの存在を強く認識させるかということがポイントになると思われる。それを踏まえた上で、周知著名商標の顧客吸引力等にただ乗りする不正目的であるか否かを検討していく必要があるのではないだろうか。

 


² リンダ・ハッチオン(辻麻子訳)、『パロディの理論』(1993年、未来社)16頁

 

関連事件

最後に、本事案に関連する、SHI-SA vs. PUMAの審決取消請求事件を以下にまとめる(表2)。図形部分のみの場合は、出所混同のおそれがあるとされ、登録無効となっていることから、文字部分の有無(結合商標であるか否か)が、判決に大きく影響したと考えられる。

 

事件番号 平成29(行ケ)10203
darts-329-602-G-ja
平成29(行ケ)10204
darts-329-603-G-ja
平成29(行ケ)10205
darts-329-604-G-ja
平成29(行ケ)10206
darts-329-605-G-ja
平成29(行ケ)10207
darts-329-606-G-ja
本件商標
(登録第5040036号)
(登録第5040036号)
(登録第5392941号)
(登録第5392941号)
(登録第5392942号)
(登録第5392942号)
(登録第5392943号)
(登録第5392943号)
(登録第5392944号)
(登録第5392944号)
引用商標
(登録第3324304号)
(登録第3324304号)
(登録第4637003号)
(登録第4637003号)
結論 登録維持 登録維持 登録無効
判断理由
(関連条文)
公序良俗違反なし
(商標法第4条1項7号)
公序良俗違反なし(商標法第4条1項7号)
非類似(商標法第4条1項11号)
混同のおそれなし(商標法第4条1項15号)
混同のおそれあり*
(商標法第4条1項15号)

*原告は、公序良俗違反(商標法第4条1項7号)および類似性(同項11号)も、取消事由にあげていた。

表2 SHI-SA vs. PUMAに係る審決取消請求事件

 

知財に情熱をお持ちですか?

ブログでの寄稿をご希望の方はお気軽にご連絡ください: