守りから攻めへ “ジェネリック80%時代の後発品対策”

バイオシミラーの特許侵害訴訟で初の判決 -リツキシマブ(Rituximab)-

September 4, 2019 / Blog, Case Comment, 田中康子, 著者
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Darts-ipユーザである弁理士田中康子様(エスキューブ株式会社)より、製薬分野で最近注目の特許判決についてご寄稿いただきました。

 

バイオシミラーの特許侵害訴訟で初の判決 -リツキシマブ(Rituximab)-

令和元年5月29日判決 東京地裁平成29(ワ)44053(darts-905-731-G-ja

 

背景:

バイオジェンの有する、B細胞リンパ腫の併用療法に関する3件の特許の専用実施権者である原告ジェネンテックは、リツキサンのバイオ後続品(バイオシミラー)を製造販売等するサンド、協和醗酵キリンに対し、製品の差止め及び廃棄を求めて東京地裁に出訴した。原告、被告、及びそれぞれの製品については次の通り。

 

原告      :ジェネンテッック(専用実施権者)

原告側補助参加 :全薬工業(製造販売元)、中外製薬(販売元)

先行バイオ製品 :リツキサン®注10mg/m

承認日     :2001/6/20

効能効果    :CD20 陽性のB細胞性非ホジキンリンパ腫 他

(少疾病用医薬品、再審査期間は10年間)

 

被告      :サンド(製造販売元)、協和発酵キリン(販売元)

被告製品    :リツキシマブ BS 点滴静注 100mg、500mg「KHK」

承認日     :2017/9/27

薬価収載    :2017/11/29 発売:2018/1/18

効能効果    :CD20陽性のB細胞性非ホジキンリンパ腫、免疫抑制状態下のCD20陽性のB細胞性リンパ増殖性疾患、ヴェゲナ肉芽腫症、顕微鏡的多発血管炎

 

対象特許と出願の経緯:

以下3件が対象となったが、いずれも特願2000-564662(出願日:1999/8/11)を親出願とする分割出願に基づくものであり、発明の名称はいずれも「抗CD20抗体の投与を含むB細胞リンパ腫の併用療法」である。尚、本件では、以下の図に示す通り合計8件の分割出願がされている。

①本件特許1:特許第6226216号

②本件特許2:特許第6241794号

③本件特許3:特許第6253842号

 

バイオシミラーの特許侵害訴訟で初の判決 -リツキシマブ(Rituximab)-

 

判決:請求棄却

判決では、本件特許1及び3は特許法36条6項1号(サポート要件)に違反しており,いずれも特許無効審判により無効とされるべきものと認められる。また、被告製剤は本件発明2の技術的範囲に属するとはいえない、と判断して原告の請求を退けた。

このうち、本件特許1が特許法36条6項1号に違反しているという点に関して、本件発明1の「(CHOP)による化学療法の最中」という表現がポイントとなった。

本件発明1

「リツキシマブを含み,低グレード/濾胞性非ホジキンリンパ腫(NHL)の治療においてヒト患者において化学療法レジメンと組み合わせて使用するための,医薬組成物であって,治療上有効量の前記医薬組成物が,前記患者へ,シクロホスファミド,ドコソルビシン,ビンクリスチンおよびプレドニソン(CHOP)による化学療法の最中に投与される,上記医薬組成物。」

ここで「最中」という文言は,本件特許1の分割出願時に「同時」という文言であったが、審査において、新規性及び進歩性を欠くという拒絶理由を回避するため、補正により「最中」に変更されたものである。

「同時」は、CHOP療法の各薬剤とリツキシマブを交互に投与する態様、すなわち、休薬期間中の投与を含むものであり、引用発明に記載されていた態様である。一方、「最中」は、かかる態様とはことなる、つまり休薬期間中の投与を含まない態様であることが意見書で示されている。

以上の経緯より、裁判所は、「(CHOP)による化学療法の最中」は,CHOP療法を開始してから所定の投薬スケジュールを繰り返して全て終了するまでの期間のうち,CHOP療法の各薬剤の投薬期間中を意味すると解するのが相当(休薬期間中に投与するものは含まない)と判断した。その上で、本件明細書によると、リツキシマブが投与されたのは「CHOPの後」であり、リツキシマブを含む医薬組成物をCHOP療法の各薬剤の投薬期間中に投与するという本件発明1の用途を記載又は示唆するものではない、よって特許法36条6項1号に違反していると結論した。

また、被告製剤の本件特許2への充足性においては、本件発明2-1における「CVP」の意義がポイントとなった。

本件発明2-1

「リツキシマブを含み,低グレード/濾胞性非ホジキンリンパ腫(NHL)の治療においてヒト患者において化学療法と組み合わせて使用するための,医薬組成物 であって,治療上有効量の前記医薬組成物が,前記患者へ前記化学療法の間に投与 され,かつ,前記化学療法が,CVPである,上記医薬組成物。」

裁判所は、CVPないしCVP療法は、シクロホスファミド、ビンクリスチン及びプレドニゾロン又はプレドニソンを併用する化学療法であると認定した。被告製剤については次の様に認定した。

「被告製剤の添付文書には,用法・用量欄に「他の抗悪性腫瘍剤と併用する場合」が記載され,用法・用量に関連する使用上の注意として,「他の抗悪性腫瘍剤と併用する場合は,先行バイオ医薬品の臨床試験において検討された投与間隔,投与時期等について,【臨床成績】の項の内容を熟知し,国内外の最新のガイドライン等を参考にすること。」と記載されている。また,臨床成績欄には,被告製剤の臨床成績として,未治療の進行期ろ胞性リンパ腫の患者に,被告製剤又は先行バイオ医薬品がR-CVPレジメンによって投与されたことが記載されているほか,先行バイオ医薬品の臨床成績として,国外臨床第Ⅲ相試験(PRIMA試験)において,ろ胞性非ホジキンリンパ腫(NHL)の患者に,R-CVPレジメンによる寛解導入療法等が実施されたことが記載されている。

そして,証拠(甲12,35)及び弁論の全趣旨によれば,被告製剤の添付文書に記載されているR-CVPレジメンは,リツキシマブを1日目に投与するとともに,シクロホスファミド(CPA)及びビンクリスチン(VCR)を1日目,プレドニゾロン又はプレドニソン(PSL)を1日目から5日目まで投与するレジメンであると認められる。

そうすると,被告製剤は,添付文書に記載されたR-CVPレジメンがシクロホスファミドを1日目にのみ投与するものであり,1日目から5日目まで投与するものでない点で,構成要件2Bの「CVP」を充足するとはいえない。」

その上で、被告製剤は本件発明2の技術的範囲に属するとはいえないと結論した。

 

コメント:

本ケースは、バイオシミラーに対する特許侵害訴訟における初の判決である。2017年8月と10月にハーセプチンのバイオシミラー(トラスツズマブ)申請に対して差止請求がされた経緯があるが、その後請求は放棄や取下げがされており判決には至っていなかった。

最近の傾向として、サポート要件や実施可能要件といった記載要件違反のみに基づいて特許の無効が認められることが増えているが、本件でもサポート要件違反のみで無効が判断された。また、分割出願を繰り返して特許庁への継続状態を維持することも、最近の傾向の一つであり、本件でも、上記図に示すように特許期間満了ぎりぎりまで分割出願が繰り返された。皮肉なことに、分割を繰り返す過程で、当初明細書に記載のない「最中」をクレームに記載したことが無効理由を生み出す結果となった。

また、充足論については、リツキシマブと併用する化学療法について詳細な議論がされている。化学療法は、疾患に対する効果を追求するため、承認された医薬品を組み合わせて行われる。使用する医薬品の種類や投与の順、投与期間、休薬期間の有無や長短によって、効果が異なってくることが多く、様々なレジメンが存在するため、療法の名称(通称)と、実際に行われていることが実務者の間で一義的でない場合もある様に思われる。製品を保護する特許の権利範囲は、添付文書に記載される効能・効果や用法・用量とリンクしていると権利行使がしやすい。特許権利化実務を行う者は、この様な点についても注意を払う必要があるだろう。

最後に、バイオシミラーの増加傾向(2017年まで10品目、2018年以降8品目)から、本件を皮切りに、今後もバイオシミラーに対する特許侵害訴訟は増加するものと予測する。しかしバイオ医薬品は、第三者が製品をカバーする特許を把握するのが難しく、権利者としても、ジェネリック医薬品に比べて侵害判断が難しい。この様な状況の中、米国でのパテントダンスや欧州での異議申立の状況を、訴訟リスクや訴訟の行方を見極めるために役立てたい。

リツキシマブについては、米国でも無効審判(IPR;例えば、darts-646-896-G-endarts-349-906-G-en等)が行われている様である。

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