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著名商標を含む結合商標の類否:「MASTERS」vs.「コナミスポーツクラブマスターズ」

November 4, 2019 / Blog, Case Comment, 五所万実
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Darts-ipユーザーである、慶応義塾大学 言語学助教の五所万実様より、注目の商標判決についてご寄稿いただきました。

著名商標を含む結合商標の類否:「MASTERS」vs.「コナミスポーツクラブマスターズ」

平成31年2月6日判決 平成30(行ケ)10154 審決取消請求事件(「コナミスポーツクラブマスターズ」事件; darts-110-639-G-ja

事案の概要

コナミホールディングス株式会社(被告)が有する本件商標「コナミスポーツクラブマスターズ」(第16,25,41類のゴルフに係る指定商品・役務)について、ゴルフのメジャー選手権の1つである「マスターズ・トーナメント」を運営する米国のオーガスタ ナショナル インコーポレイテッド(原告)は、特許庁に対し無効審判請求をしたが、登録有効の審決(平成30年6月25日 無効2017-890011号事件; darts-356-694-F-ja)がなされたため、審決取消を求め知財高裁へ出訴した。
平成31年2月6日、知財高裁は、本件商標の登録を有効とする審決を支持し、原告の請求を棄却した。

原告:オーガスタ ナショナル インコーポレイテッド

引用商標1:「MASTERS」(登録第1325831号)

引用商標2&3:(登録第2198446 & 1934194号)

(以下、まとめて「原告商標」)

 

 

引用商標4:(登録第2715796号)

 

MASTERS  

MASTERS

 

被告:コナミホールディングス株式会社

本件商標:「コナミスポーツクラブマスターズ」(登録第5712040号)

 

争点

本事案では、原告が無効理由としてあげた次の点が争われた。

1) 本件商標は、原告商標と類似するか(商標法4条1項11号)

2) 本件商標の使用は、原告の業務に係る商品・役務と混同を生ずるおそれがあるか(同項15号)

3) 被告は、原告商標の周知性、著名性にフリーライドして不正の利益を得ようとするなどの不正の目的をもって本件商標を使用しているか(同項19号)

4) 本件商標は、公序良俗に反するか(同項7号)

 

判決

本件商標は、1)ゴルフに係る指定商品・役務について原告商標とは非類似の商標であって、2)原告の業務に係る商品・役務と出所混同を生ずるおそれがあるとはいえない。また、本件商標を、3)原告商標の周知性、著名性にフリーライドして不正の利益を得ようとするなどの不正の目的を持って使用するもの、4)公序良俗に反するものと認めるに足る具体的な事実の主張立証もない。したがって、商標法4条1項11号,同項15号,同項19号及び同項7号に違反して登録されたものとは認められないとした本件審決に取り消されるべき違法はない。

 

以下に、原告の主な主張と、それに対する裁判所の判断を示す。

原告の主張 裁判所の判断
商標の類似性 ·  ゴルフに関係した商品・役務に「マスターズ」が使用された場合、これが他の語と結合されて使用されたとしても、「マスターズ・トーナメント」以外の意味合いで理解することはあり得ない。

·  本件商標からは、スポーツクラブの名称である「コナミスポーツクラブ」と、周知著名なグルフ・トーナメントの略称として広く知られている「マスターズ」の二つの外観、称呼及び観念を生じる。

·  冗長な構成音調から成る本件商標は、原告の商標「マスターズ」を連想、想起させるおそれがあるため、外観、称呼及び観念において両商標の類似性の程度は高い。

 

· 「マスターズ」の語は、原告主催の「マスターズ・トーナメント」のみならず、「熟練者ないし中高年を含む一定年齢以上の年齢層を対象とした各種スポーツ競技ないし競技会」をも指す語としてスポーツ愛好者の間で広く知られており、事実、大会名においても広く使用されている。

· 「コナミスポーツクラブ」は周知であり出所識別標識として強く支配的な印象を与える。

· 「コナミスポーツクラブが関連する何らかのマスターズ競技ないしその競技大会」あるいは「コナミスポーツクラブ」という観念が生じる本件商標は、複数語義を持つ原告商標とは、いずれにおいても外観、称呼及び観念において非類似。

混同のおそれ · 原告の「マスターズ」は、既成語ではあるものの、その選択に高度の独創性があり、極めて著名。

· 本件商標がゴルフ関係の商品・役務に使用された場合、原被告間に営業上、経営上、組織上、契約上の密接な関係を誤認させる。

· 本件商標中、周知である「コナミスポーツクラブ」の部分に着目し理解されるため両商標は非類似。

· 原告商標「MASTERS」の表示・表示の選択に、独創性があるとは言えない。

· 「マスターズ・トーナメント」以外のゴルフ関連事業において、原告商標が日本国内で出所識別を表示するものとして周知著名であるとは認められないため、原被告の商品・役務間の関連性や需要者の共通性はそれほど重視すべき事情であるとは言えない。

· よって、緊密な営業上の関係又は同一の表示によりグループ関係にある営業主の業務に係る商品等であると誤信されるおそれがあるとは言えない。

不正目的使用 · ゴルフに関する役務を営んでいる被告は、著名な原告商標を知らずに「マスターズ」の文字を使用したとは考えられない。

· 被告が原告商標の周知性、著名性にフリーライドして不正の利益を得る目的に出たか、原告商標との間で混同を生じさせて利益を得ようとしたか、そのいずれかとしか解釈しようがない。

· 不正の目的をもって本件商標の使用をしていると認めるに足りる具体的な事実の主張立証はない。

 

公序良俗違反 · 周知著名な商標を含んだ本件商標の使用は、他人が築き上げた名声、信用、周知性、著名性にフリーライドするものであって、このような行為が公序良俗に反することは多言を要しない。 · 本件商標がその出願経過等に照らして公序良俗に反すると認める足りる具体的な事実の主張立証はない。

 

コメント

本事案では、本件商標中の「マスターズ」の観念認定が大きな決め手となった。①国内外問わず著名なゴルフ競技会「マスターズ・トーナメント」の略称である原告商標「MASTERS」の周知性は認められるものの、「マスターズ」という語は、あくまで「コナミスポーツクラブ」との関連において解釈され、ゴルフ・トーナメント以外にも、辞書に記載されている「中高年のための競技会」という意味合いがスポーツをする者の間では比較的周知されていること、②事実、数々の大会名にも使用されていること、③また、国内首位の「コナミスポーツクラブ」はスポーツ全般において一般需要者に広く知られている商標であることから、必ずしも本件商標中「マスターズ」の部分のみが注目され、「マスターズ・トーナメント」を連想させるとは認められないと判断された。

原告の主張は、全てにおいて「マスターズ」の語に原告主催の「マスターズ・トーナメント」の意味しか認めず、「コナミスポーツクラブ」の周知性を勘案しないものであったため、その前提自体が採用できないとされ退けられた。

本事案が示唆するところは、独創性の低い語からなる著名商標を含む結合商標の類否においては、他の語と結合することによって生まれる意味や、結合する語との関係における識別力の強弱、さらに関連する指定商品・役務における出所識別力が、著名商標が要部として抽出されるか否かを左右するということであろう。

ちなみに原告は、ゴルフ関連事業において「MASTERS」と原告(の商品・役務)との排他的な連想関係を維持するため、あらゆる商品・役務における「MASTERS」の使用許可を求める世界中からの申し出を、限られた例外を除き拒否しているようだ(cf. 米国商標「MASTERS」vs.「JUNIOR MASTERS」; darts-247-952-A-en)。

本請求を棄却された原告は、その後、平成31年3月22日に最高裁判所に上告しており、その結果が待たれる。

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