マリオ - 「マリカー」事件

不正競争行為差止等請求控訴事件〔「マリカー」事件〕

Darts-ipユーザである弁理士中村祥二様(Markstone知的財産事務所)より、不正競争行為分野で最近注目の判決についてご寄稿いただきました。

 

不正競争行為差止等請求控訴事件〔「マリカー」事件〕

知財高裁 令和元年5月30日判決 平成30(ネ)10081 不正競争行為差止等請求控訴事件〔「マリカー」事件〕(darts-646-349-G-ja

要約

ゲーム業界の大手「任天堂」が、公道カートのレンタルサービスにおいて「マリカー」等の表示等を使用し、また、同社のゲームキャラクターのコスチュームを着用した人物画像をウェブサイトに掲載等していた企業に対して、差し止め、損害賠償を求めていた訴訟について、令和元年5月30日、控訴審である知財高裁は、第一審と同様に一審被告の行為が不正競争行為に該当するとの中間判決を下した。判決の内容は、第一審判決よりも、任天堂の主張を認める内容となっている。

本稿においては、本判決を第一審との判断の相違部分に焦点を当てて紹介する。

※利用者が任天堂のゲーム「マリオカート」(https://www.nintendo.com/games/detail/mario-kart-8-deluxe-switch/)のキャラクターのコスチュームを着て、ゴーカートで公道を走行する体験を提供するサービスである。

(参考ウェブサイト「CNN Travel」https://edition.cnn.com/travel/article/maricar-tokyo/index.html

事案の概要

1. 当事者

一審原告:株式会社任天堂(以下、単に「原告」という。)
一審被告:株式会社MARIモビリティ開発(以下、単に「被告」という。)

2. 原告表示

原告文字表示 ・マリオカート(MARIO KART)

・マリカー

原告表現物 ※原告表現物は、「マリオ」、「ルイージ」、「ヨッシー」、「クッパ」の各キャラクターを表現した絵である。

以下は、その一例を示すもので、第一審判決の別紙「原告表現物目録」からの抜粋である。

 

「マリオ」

マリオ - 「マリカー」事件

 

3. 被告標章

被告標章第1 第1の1) マリカー

第1の2) MariCar

第1の3) MARICAR

第1の4) maricar

被告標章第2 ※被告商標2は、「マリオ」、「ルイージ」、「ヨッシー」、「クッパ」の各キャラクターのコスチュームや、マリオの人形である。

以下は、その一例を示すもので、第一審判決の別紙「被告標章目録第2」からの抜粋である。

 

「マリオのコスチューム」 「マリオ人形」
マリオコスチューム - 「マリカー」事件
マリオ人形 - 「マリカー」事件

 

 

 

4. 被告の主な行為

被告は、2015年6月から、公道を走行することが可能なカート(以下、「公道カート」という。)のレンタルサービス(以下、「レンタル事業」という。)を営み、その事業において、次の行為を行った。

a) ウェブサイトやチラシ等への被告標章第1の1~4の使用
b) レンタル事業のウェブサイトへの、マリオ等のコスチューム(被告標章2)を着用した人物が写った写真の掲載
c) YouTubeへの、マリオ等のコスチューム(被告標章2)を着用した人物が公道カートを運転する様子を撮影した動画のアップロード
d) マリオ等のコスチューム(被告標章2)を着用した従業員によるレンタル事業におけるカートツアーの先導
e) 被告標章2のマリオ人形の店頭への設置

5. 争点

多くの争点を含む事案であるが、主としては、原告表示が不正競争防止法上の商品等表示に該当するかどうか、被告標章の使用行為が不正競争防止法2条1項1号又は2号に該当するか否かである。

6. 第一審(東京地裁 平成30年9月27日判決 平成29(ワ)6293(darts-732-656-F-ja))

(1)原告表示の商品等表示の該当性について

a) 原告文字表示「マリカー」について

裁判所は、原告文字表示「マリカー」が、「日本全国のゲームに関心を有する者の間で,広く知られていた」と判示し、「マリカー」が原告の周知な商品等表示であると認定した。
ただし、その周知の範囲は、日本語を理解する者の間に限られ、日本語を理解しない者の間での周知性は認めなかった。

 

b)原告表現物について

裁判所は、「マリオ」、「ルイージ」、「ヨッシー」、「クッパ」の各キャラクターに係る原告表現物が、日本全国の者の間及び外国に在住して日本を訪問する者の間で、周知な商品等表示に該当すると認定した。

 

(2)各行為についての不正競争防止法2条1項1号又は2号の該当性

a)被告標章第1の1~4の使用について

適用条文:不正競争防止法2条1項1号
裁判所は、被告標章第1の1「マリカー」については、原告文字表示と同一であるとし、被告標章第1の2~4については、原告文字表示マリカーと類似のものと受け取られるおそれがあると判示した。
そのうえで、原告の業務に係る商品「ゲームソフト」と、被告のレンタル事業との関係について、両者の間に強い関連性が認められると判示し、混同のおそれがあると判断した。
ただ、その差し止めの範囲については、「マリカー」が日本語を理解しない者の間での周知性が認められないとの上記判断を理由に、外国語のみが記載されたウェブサイトやチラシについては、その差し止めを認めなかった。

 

b)被告標章2の使用について

適用条文:不正競争防止法2条1項1号
裁判所は、コスチュームを着用した人物の表示について、ゲームシリーズ「マリオカート」のキャラクターを連想させ、本件レンタル事業の需要者における混同のおそれがある旨判示した。
また、マリオ人形についても、原告表現物マリオと類似すると判断し、同様に混同のおそれがあると判断した。
そして、被告の営業上の施設及び活動において、被告標章2の使用が禁止され、被告の行為(ウェブサイトへの掲載、動画のアップロード、従業員にコスチュームを着用させること、店舗内にマリオ人形を設置すること、コスチュームを貸与すること)の差し止めが認容された。

判旨

上記の第一審の判旨に対応する本判決の判旨は次のとおりである。

1.原告表示の商品等表示の該当性について

a) 原告文字表示「マリオカート」について

裁判所は、原告文字表示「マリオカート」が「一審原告の人気カートレーシングゲームシリーズを表すものとして,「著名な商品等表示」(不競法2条1項2号)になり,これが現在でも継続していると認められる。」と認定した。
加えて、「マリオカート」を英語表記した「MARIO KART」表示について、日本国内だけでなく日本国外の需要者においても原告の「著名な商品等表示」であると認定した。

b)原告表現物について

裁判所は、「マリオ」、「ルイージ」、「ヨッシー」、「クッパ」の各キャラクターの原告表現物についても、「著名な商品等表示」に該当すると認定した。

 

2.各行為についての不正競争防止法2条1項1号又は2号の該当性

a)被告標章第1の1~4の使用について

適用条文:不正競争防止法2条1項2号
裁判所は、外観および称呼における類似性や観念における共通性を理由に、原告文字表示と被告標章第1とが類似すると判断した。
そして、被告の行為は、「外国語のみで記載されたウェブサイト等で用いることも含めて不正競争行為に該当するものである。」と結論付けた。

 

b)被告標章2の使用について

適用条文:不正競争防止法2条1項2号
裁判所は、コスチュームを着用した人物の表示について、「外観上,原告表現物と類似することや「マリオカート」シリーズが,「マリオ」や「ヨッシー」等によるカートレーシングゲームとして日本国内外の本件需要者の間で著名であること」を理由に、原告表現物と類似すると判示し、不正競争防止法2条1項2号に該当すると判断した。
また、マリオ人形についても、原告表現物マリオと類似すると認定し、その設置行為が不正競争防止法2条1項2号に該当すると判断した。

コメント

本判決は、控訴審における中間判決であり、被告の行為が不正競争行為に該当するか等の差し止めや損害賠償の前提となる事項についてのみ判断したものである。今後、損害賠償額について審理がなされ、最終的な判決が出される見込みである。

本判決は、周知性・著名性の認定や対比する原告文字表示、需要者の範囲等において第一審判決と異なる。その概要は次のとおりである(表1)。

 

表1:第一審と本判決の比較

争点 第一審 本判決
【適用条文】

不正競争防止法2条1項1号

【適用条文】

不正競争防止法2条1項2号

被告標章第1について 原告文字表示の周知性・著名性 1) マリカー

日本全国のゲームに関心を有する者の間で「周知」

但し、日本語を理解しない者の間での周知性は否定

1) マリオカート

日本国内において「著名」

2) MARIO KART

日本国内において「著名」

及び

日本国外の需要者間で「著名」

3) マリカー

日本国内の需要者間で「周知」

原告文字表示と被告標章の類否 1) 原告文字表示「マリカー」

VS.

被告標章「マリカー」

類否判断:同一

 

2) 原告文字表示「マリカー」

VS.

被告標章「MariCar、MARICAR、maricar」

類否判断:類似

1) 原告文字表示「マリオカート」

VS.

被告標章「マリカー」

類否判断:類似

 

2) 原告文字表示「MARIO KART」

VS.

被告標章「MariCar、MARICAR、maricar」

類否判断:類似

混同のおそれ 混同のおそれあり

(需要者に対し,原告文字表示マリカーを連想させ,その営業が原告又は原告と関係があると誤信させる。)

判断なし

 

被告標章第2について 原告表現物の周知性・著名性 周知 著名
原告表現物と被告標章の類否 類似

(ゲームシリーズ「マリオカート」のキャラクターを連想させる。)

類似

(公道カートに乗り,キャラクターのコスチュームを着用した人物の表示を見た本件需要者は,そこから原告表現物を想起する。)

混同のおそれ 混同のおそれあり

(被告と原告との間に同一の営業を営むグループに属する関係又は原告から使用許諾を受けている関係が存すると誤信させるおそれがある。)

判断なし

まず、本判決においては、周知性・著名性が検討された原告文字表示は、「マリオカート(MARIO KART)」と「マリカー」である。そして、「マリオカート(MARIO KART)」について著名性が認められ、「マリカー」については周知性が認められた。

裁判所が「マリオカート(MARIO KART)」の著名性を認めた根拠は、ゲームだけではなく、他の分野-とりわけゲームとの関連性が薄い分野-への使用許諾の事実を裁判所が評価したためと思われる。

この点、第一審が「マリカー」の周知性のみを認定して判決したのと異なる。

そして、原告文字表示の著名性が認められたことにより、適用される条文が、第一審では不正競争防止法2条1項1号であったのが、本判決では、同2号になった。

不正競争防止法2条1項1号が、周知な商品等表示を使用して他人の商品又は営業と混同を生じさせる行為を規制するのに対して、同2号は著名な商品等表示を使用する行為を混同の要件なく規制する点において、原告に有利になったことは明らかである。特に、被告による、「任天堂は無関係」や「Unrelated to Nintendo」との打ち消し表示の存在を根拠とする「混同のおそれがないこと」の主張が無意味になった点において意義があろう。

また、本判決では、原告文字表示「マリオカート(MARIO KART)」と被告標章第1とが類似すると判断した。

裁判所は、不正競争行為に該当するか否かを判断する観点から、「マリオカート(MARIO KART)」の著名性や被告標章との近似度に鑑み、観念上の類似性にやや重きを置いて類似と判断したように思われる。

そして、需要者の範囲にしても、第一審においては、日本語を理解しない者の間での周知性を認めなかったのに対して、本判決においては、「マリオカート」の英語表記である「MARIO KART」を商品等表示として認め、「MARIO KART」について、日本国外の需要者間での著名性も認めた。

第一審では認められなかった外国語のみで記載されたウェブサイト等についての不正競争行為が認められ、差し止めの範囲が広がる結果につながる判断である。

一方で、原告文字表示の著名性が認められる需要者の範囲が広がったことによる損害賠償額への影響はさほど大きくないと思われる。第一審においては、原告表現物(キャラクターコスチューム)に強い顧客吸引力が認められることを根拠に、日本語を理解しない者に対する行為を賠償額算定の基礎から除外しなかったためである。

もっとも、原告は損害賠償額の増額を求めており、今回の中間判決によって原告表示の著名性自体が認められたことや、第一審判決後も被告の行為が継続していることから、賠償額が増額される可能性は十分にある。

なお、原告は、著作権法上の複製権等の侵害も主張していた。ファッションローの分野との関係で注目されていたが、不正競争防止法を適用することで原告の目的が達成されることを理由に、裁判所はこの点について判断しなかった。

本判決は、ゲームに係る商品等表示に、ゲーム名のほか、キャラクターの表現物が含まれ、実写的に使用する態様(コスチューム)についても差し止めが認められた点で注目された判決である。日本のゲーム業界やアニメ業界が成長する中で、キャラクターの商用利用に対する保護の一つの可能性を示した点で意義ある判決と考えられる。

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