守りから攻めへ “ジェネリック80%時代の後発品対策”

守りから攻めへ “ジェネリック80%時代の後発品対策”:興和が特定の一社を狙い撃ち

Darts-ipユーザである弁理士田中康子様(エスキューブ株式会社)より、製薬分野で最近注目の特許判決についてご寄稿いただきました。

守りから攻めへ “ジェネリック80%時代の後発品対策”:興和が特定の一社を狙い撃ち

平成30年4月4日判決 知財高裁平成29(ネ)10091(興和対東和薬品)

平成30年4月4日、知財高裁は、興和のブロックバスターリバロ®(ピタバスタチン)の東和に対する差止請求訴訟において、原審(平成29年9月29日判決 東京地裁平成27(ワ)30872)の判断を支持し興和の請求を認める判決をした(darts-939-003-E-ja)。

リバロに関して、興和は、原薬メーカーで特許権者である日産化学による特許侵害訴訟で10社以上のジェネリックメーカーを訴えた過去(表1参照)がある。この時はすべてのケースでジェネリックメーカーが勝訴していた。
しかし今回のケースでは、興和はピタバスタチンの錠剤及びOD錠を含む後発品を販売する20社以上のメーカーのうち東和だけを狙い撃ちした格好だ。

背景:

興和(原告)は、高コレステロール血症治療剤であるリバロ®錠及びOD錠を販売し、これを保護する製剤特許(特許第5190159号、出願日:平成24年8月8日)を有している。東和を含む多くのジェネリックメーカーがリバロ®の後発品を上市した。平成27年10月30日、興和は、東和(被告)に対し、差止請求を求め東京地裁に特許侵害訴訟を提起した(darts-173-445-D-en)。東京地裁で原告勝訴の判決が出された後、被告は知財高裁に控訴していた。

本件発明:

特許第5190159号の請求項2が、判決中の「本件発明2」である。

請求項1

次の成分(A)及び(B):

(A)ピタバスタチン又はその塩;

(B)カルメロース及びその塩、クロスポビドン並びに結晶セルロースよりなる群から選ばれる1種以上;

を含有し、かつ、水分含量が2.9質量%以下である固形製剤が、気密包装体に収容してなる医薬品。

請求項2

固形製剤の水分含量が1.5~2.9質量%である、請求項1記載の医薬品。

争点:

被告は、充足論については争わず、先使用権と特許無効を主張した。

<日本における先使用権>

先使用権は、特許法第79条において次の通り規定されている。

特許出願に係る発明の内容を知らないで自らその発明をし、又は特許出願に係る発明の内容を知らないでその発明をした者から知得して、特許出願の際現に日本国内においてその発明の実施である事業をしている者又はその事業の準備をしている者は、その実施又は準備をしている発明及び事業の目的の範囲内において、その特許出願に係る特許権について通常実施権を有する。

本件において、被告が先使用権を有するといえるためには、平成24年8月8日までに日本国内で、本件発明の実施である事業の準備をしていたことを示す必要がある。被告は、出願日より前にサンプル薬を製造し治験を実施していたことを主張し、サンプル薬と実生産品の水分量を測定したデータを提出した。

判決:

裁判所は、サンプル薬に具現された技術的思想が本件発明2と同じ内容の発明でなければならないと判示し、被告の先使用権を否定した。特許無効に関して、被告は本件発明の進歩性欠如を主張したが、裁判所はこれを退けた。

まとめと本判決のポイント:

先使用権の要件を満たすためには、特許出願前に製造された製品に具現された技術的思想が本件発明と同じ内容の発明でなければならないと、裁判所は示した。しかし、事業の準備の段階で、他者による将来の発明の内容を予想することは、特に医薬や化学に関する発明においては、難しいと考える。言い換えると、今後、医薬や化学のケースで先使用権が認められることはほとんど無くなるとも考えられる。本件は最高裁に上告されており、先使用権について先例になる可能性があるため、引き続きウオッチする必要がある。

尚、興和は平成30年6月1日東京地裁に損害賠償(東和によると38億円*)請求訴訟(平成30(ワ)17586)を提起し(darts-194-186-F-en)、その第1回口頭弁論の日に、東和は特許無効審判(無効2018-800092)を請求した(darts-495-220-F-en)。興和対東和の戦いはまだ終わっていないが、ジェネリック80%時代の先発対後発の戦いを象徴する事件になりそうだ。

* 東和薬品プレスリリース https://www.towayakuhin.co.jp/pdf/news180622-1.pdf

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