日本の医薬品特許訴訟における新たな指標

日本の医薬品特許訴訟における新たな指標

August 6, 2018 / Japanese

 

Darts-ipユーザである弁理士田中康子様(エスキューブ株式会社)より、製薬分野で最近注目の特許判決についてご寄稿いただきました。

日本の医薬品特許訴訟における新たな指標:

違法な後発品参入によって引き下げられた原告製品の取引価格下落分が原告の損害額として認められる

平成29年7月27日判決 東京地裁平成27(ワ)22491(darts-116-166-E-ja

中外製薬 vs 岩城製薬・高田製薬・ポーラファルマ

平成29年7月27日、東京地方裁判所は、先発医薬品(先発品)メーカーの特許権を侵害して参入した後発医薬品(後発品)により引き下げられた原告製品の取引価格の下落分は、原告の損害額であるとの中外製薬の訴えを認めた。この判決により日本で初めて、違法な後発品参入によって引き下げられた原告製品の取引価格下落分が原告の損害額として認められたことになる。

 

背景:

中外製薬(原告)は、皮膚疾患治療剤であるオキサロール®軟膏を販売し、製品を保護する製法特許(特許第3310301号)を有していた。岩城製薬株式会社、高田製薬株式会社、並びに株式会社ポーラファルマ(被告ら)は、オキサロール®軟膏の後発品を上市し、その結果先発品の薬価が下落した。原告はすでに、これら後発品メーカーに対して差止を求める訴訟で勝訴している(平成29年3月24日判決 最高裁第二小法廷平成28(受)1242 darts-815-665-D-ja)。

 

日本の薬価制度:

日本の医薬品市場は厳しく規制されており、医薬品の取引価格(薬価)は政府、すなわち厚生労働省により設定される。薬価は、常に変動する市場で取引される医薬品価格に基づき、定期的に見直され改定される。後発品の参入により、先発医薬品の薬価はさらに引き下げられる。本件では、特許侵害による違法な後発品の参入により、先発品の薬価は138.00円/g から123.20円/gへ引き下げられていた。

 

医薬品産業における特許権侵害による損害額の算定:

一般に、不法行為による損害額は民法第709条に基づき計算される。しかし、特許権侵害訴訟においては、侵害行為と損害額の関係を証明することが困難なため、損害額の算定のための特別規定として、特許法第102条第1項から同条第3項が規定されている。

 

先発対後発の特許権侵害訴訟では、先発メーカーの勝率が非常に低いため、損害額に関して判決が下される機会は極めてまれであるが、実は10年程前、アステラス製薬対大洋薬品工業の間で同様の事件があった。アステラスは、差止請求訴訟での勝訴確定(平成19年9月10日判決 知財高裁平成19(ネ)10034 darts-822-468-A-ja、同年12月25日に最高裁が上告を棄却し高裁判決が確定)を勝ち取り、東京地裁に、大洋薬品の後発品参入による薬価下落に基づく損害賠償を求めて訴訟を提起していたが、地裁判決の前に両者は和解した。

 

判決:

裁判所は、市場シェア喪失による逸失利益と、取引価格下落による逸失利益は、別個の損害であり、原告は、両方の損害について賠償を請求できると判示した。さらに、被告らの侵害行為と原告の取引価格下落による逸失利益に係る存在との間には相当因果関係が認められる、したがって原告は、各被告に対し,薬価下落に起因する損害額の全額の賠償を請求できると判示した。

 

裁判所は判決において、被告岩城製薬に2億363万2798円(およそ1.85百万米ドル)、被告高田製薬に金1億1815万9458円(およそ1.07百万米ドル)、そして被告ポーラファルマに金1億6822万3686円(およそ1.53百万米ドル)の支払い、同時に各被告に支払金額に対する平成27年9月15日から支払い済みまで年5分の割合による金員の支払いを命じた。さらに、被告岩城製薬、被告高田製薬及び被告ポーラファルマに対し、連帯して、金5億7916万9686円(およそ5.27百万米ドル)の支払いを命じた。

 

まとめと本判決のポイント:

本判決は、日本で初めて、違法な後発品参入によって引き下げられた原告製品の取引価格下落分を原告の損害額として認めたものである。また本判決では、原告は市場シェア喪失による逸失利益と、取引価格下落による逸失利益の両方を請求できることも示された。本件は、今後の先発メーカー対後発メーカーの特許権侵害訴訟において、前例として参照されることになるだろう。日本では今のところ顕在化していないリバースペイメントを誘発する可能性もある。また、今回権利行使に用いられたのが製法特許であることも特筆したい。後発メーカーがパテントクリアランス(FTO)を行う際には、製法特許も含めて注意深く精査する必要がある。

 

 
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